ショコラ


「お待たせ」

お兄さんは、
温かそうな上着を一枚羽織って出てきた。


「休憩先にとらせてもらった。1時間あるから行こう?」

「え? 行こうって」

「ここは嫌なんでしょ?」


なんで知ってるの、
と思いつつ本当の事なので頷いた。

お兄さんは私の手を掴んで歩き出そうとしたけれど、
私がびくりと体をゆすると、「ごめん」と言って手を離した。


「あの、とりあえずこれ」


免許証を渡すと、「ああ、忘れてた」と言って受け取る。

この人、危ないかもしれない。
犯罪者に利用されても知らないよ。


「この間、ごめんね」


お兄さんは歩きながら、ぼそりと呟いた。


「あんな日にケーキ食べさせるなんて、ひどかったね」

「あんな日って、なんで振られたのお兄さんが知ってるんですか」

「だって、泣いてたし。彼、今日も来てたし」


うう。確かにそう。


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