ショコラ

「……俺、パティシエ志望であの店で修業させてもらってるんだ。
君さ、週に1度は必ずケーキを頼んでたでしょう。
おいしそうに食べるから、すごく覚えててさ。
あの日、初めて店に出していいって言われたから、思わず君に出してしまったんだ」

「そう、だったんですか」

「でもよく考えたらさ、泣いてるのにケーキなんて食べれないよな、って。悪かったよ、ホントに。俺自分のことしか考えてなくて。でも最後まで食べてくれて、嬉しかったんだ」

「いいえ。私こそ、ケーキの感想、適当なこと言っちゃってごめんなさい」

「適当じゃないよ。味が分からなかったって、ちゃんと言ってくれたじゃないか」


お兄さんは優しく笑う。
ああ、なんかいい人だなぁ。


「……お兄さんのケーキ、いつかちゃんと食べてみたいけど。ごめんなさい。私もう『ショコラ』には行けないです」

「彼が来るから?」

「うん。やっぱりちょっと、会いたくないし」


お兄さんは残念そうにほほ笑んだ。
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