ショコラ
「休み、どうすんの?」
「うーん。バイトしようかと思ってる。これから探すから、見つかるかわかんないけど」
「そうかぁ。私もなんかしよう。検討を祈るね」
沙紀と今まで通り話せたことに、少しだけ安心した。
講義室を抜けようとした時、沙紀は振り返って一言釘を刺した。
「ね、ホントに、あんな男忘れなよ。和美にはあわないから」
バタバタと、沙紀が走って行く音がする。
……私には合わない、かぁ。
そうだよね。
私も最初そう思っていた。
だけど、好きだって言われて付き合ってみて、あんなに楽しかったんだよ?
ホントに合わないんだったら、あんな時間も持てないんじゃないの?
頭の中、ぐるぐる回る。
本当は考えたって仕方ないって分かっているのに。
忘れなきゃいけないのに。
徹はどうして、あの時私を選んだの?
誰でもよかった?
でも『特別』って言ってくれたのに。
胸の中に渦を巻く思い出。
分かってる。
本当はまだ忘れてない。
徹が、もう一度私を特別だって言ってくれるのを、心のどこかで待っている。