ショコラ
目の前の、
柔らかい茶色い髪をうるさそうにかき上げる彼を見て思った。
簡単なことだったろう。
あなたにとっては。
こんな、恋愛経験の少ない女を手玉にとるのは。
私はあなたの言葉を簡単に信じた。
『愛してる』も、『君だけ』も。
そうして初めての唇もささげたし、体も重ねた。
そして3ヶ月、
私がもう『特別』じゃないから、
あなたは私から離れようとしている。
「ごめんな。和美(カズミ)」
1グラムの重みさえ感じられないほどあっさりと彼が言う。
計算ずくなんでしょう。
街中の喫茶店、こんなところで私が泣き叫ぶはずはないと。
だからこんな、
人の多いところで、
人の目のあるところで、
別れ話を切り出したんだ。
私ならこんな場所では、
聞き分けのいい女にならざるを得ないと知っていて。