ショコラ


「こんなにおいしいケーキを、これからずっと食べるたびにこんな風に思うなら」


こんな風に。

悲しい失恋を思い出すなら。

どうして自分では駄目なのかと、思い返すのなら。

この恋は私に、何ももたらさなかった。


「……そんなことないよ」


マサさんの優しい声が降ってくる。

ケーキのお皿を奪い取られて。

彼は私の肩を包むように左手を乗せた。


「なんで、君に声をかけたと思う」


マサさんの優しい声が耳元で囁く。

< 31 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop