ショコラ


「俺も……いつでも相談に乗るから」


マサさんはそう言うと、私の腕を離した。
何でだかつき離されてしまったような気がしてちょっと寂しい気分になる。


「あ、……はい。ありがとうございます」

「……さけねー」


お礼の返事にマサさんがぽつりと呟いた一言は、私の耳には届かなかった。
聞き返そうとする前に、マサさんは顔をあげて私を見る。


「カウンター、席開けて待ってるから」

「え?」

「いつでも」

「……はい」


そう言われて、嬉しくなって笑うとマサさんも笑ってくれた。


「帰ろうか。和美ちゃん家どこ? 送るよ」

「はい。ええと……」


マサさんが、ケーキを御馳走してくれたこの日。
私の中で何かが動き出した。

これが、前に進めるものであってほしい。
後ろに伸びる長い未練を、断ち切れるものであってほしい。

心から、そう願った。
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