ショコラ

5メートルも歩かないうちに、携帯電話が鳴る。
電話ではなくて、届いていたのはメールだった。
差出人はマサさんで、題名の無いメールには一言だけが書いてあった。


【何かあったなら、おいで】


胸の奥から、何かがこみ上げてきた。
それは失恋の悲しみから出たものとも叩かれた頬の痛みから出たものとも違う、あったかい涙。

マサさんは、優しい。
温かくて、すがりつきたくなる。

後ろを振り向くと、『ショコラ』の窓越しにマサさんの視線と出会った。
マサさんは私が泣いているのに気付いたのか、後ろにいた詩子さんに一言二言話すと、店内から飛び出してきた。
見る見るうちにマサさんが近づいてくる。
だけど近付くほどに、視界はぼやけて輪郭がはっきり見えない。

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