ショコラ


「お待たせしました」


その時、テーブルに茶色いチョコレートケーキが置かれた。
この店に来ると、毎回頼んでいたお気に入りのケーキ。
だけど、今日は頼んでなかったのに。

頼んでいません、と顔を上げようとしたら、
不意に涙がこみ上げてきて何も言えなくなった。

その皿を乗せた男の人らしい大きな手は、
スッとテーブルから離れて行った。

なんとか泣きださないように
口を押さえながら顔をあげると、
いつもはカウンターに詰めている、
コーヒーを上手に入れるお兄さんの後姿が遠ざかって行った。


……どうしよう。


頼んでないのに。

だけど、注文ミスってわけでもなさそうだ。
誰も、注文の品が来ないって騒いでいる人はいない。

支払いは彼が済ませてくれたはずだし。
もし言われても、払えばいいか。


< 6 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop