ショコラ
「お待たせしました」
その時、テーブルに茶色いチョコレートケーキが置かれた。
この店に来ると、毎回頼んでいたお気に入りのケーキ。
だけど、今日は頼んでなかったのに。
頼んでいません、と顔を上げようとしたら、
不意に涙がこみ上げてきて何も言えなくなった。
その皿を乗せた男の人らしい大きな手は、
スッとテーブルから離れて行った。
なんとか泣きださないように
口を押さえながら顔をあげると、
いつもはカウンターに詰めている、
コーヒーを上手に入れるお兄さんの後姿が遠ざかって行った。
……どうしよう。
頼んでないのに。
だけど、注文ミスってわけでもなさそうだ。
誰も、注文の品が来ないって騒いでいる人はいない。
支払いは彼が済ませてくれたはずだし。
もし言われても、払えばいいか。