ショコラ
意気込んだ私の前に、不意にメニューが置かれる。
「お客様は長居だから、ご注文お願いしまーす」
「詩子さん」
「ふふ。なんか頼みなよ。おごってあげる」
詩子さんが、にやりと笑って私を見る。
「あ、でもさっきマサさんにおごってもらったので」
「なによ。あたしのおごりは食えないって訳?」
遠慮したつもりだったのに、詩子さんには逆効果だったみたい。
「じゃあ、コーヒーをもう一杯。太るんで」
「もう少し太ったっていいわよ。マサ、ホイップクリームつけてやんな」
「詩子、店ン中でその口調やめろって。ほら」
マサさんが後ろでコーヒー豆を引いているマスターを指差す。
確かに、怖い顔で睨んでいる。
「やっば」
詩子さんは肩をすくめて、大人しそうな笑顔を作った。
この顔、……造り物だったんだ。