ショコラ
『ショコラ』に近付くと、窓際のいつもの席に徹がいるのが見えた。
彼は少し寂しそうな表情で窓の外を見つめている。
反対側の席には誰もいない。
どうやら今日は一人のようだ。
私が徐々に近づいていくと、彼は目を見張ったように表情を変えた。
でも、きっと彼は私だとは思っていないのだろう。
私とつき合っていた時も、彼はこうしてよく窓の外を見ていた。
あの頃、私は何にも思わなかったけど、今なら分かる。
彼はきっと、もう手に入れることのできない人を思い浮かべていたんだ。
その証拠に私の顔が認識できるくらい近付くと、彼の中に落胆した表情が見えた。
「……和美?」
「徹」
窓越しの会話は良く聞こえなくて、口の動きだけで出てきてほしいと伝える。
彼が頷いて料金を払いに立ち上がると、カウンターの奥にいたマサさんと目が合った。
心配そうな表情。
大丈夫。
心配しないで。
聞こえるはずもないのに、心の中で呟いた。