グッバイ・マザー
「お風呂沸いたみたいだから、入りなさい。」「うん。小名子さん、ありがとう。」
僕は伯母をおばさんとは呼ばない。伯母が名前で呼ぶ事を僕達姉弟に強要したからだ。
そこもこの人らしいと思う所だった。
風呂に入り一人になると、死んだ母を思い出す。
母はアルコール依存症だった。僕の記憶には酔った母しかいない。
酒を浴びる程飲んで、夕飯の支度もしないで寝ていたりはしょっちゅうで、ある時、学校から帰ると家の中が焦臭く、見ると酔い潰れて台所の床に転がった母と煙を上げている鍋。
僕が帰って来なければ、家は焼け、母は死んでいただろう。
僕はその時何も見なかった事にして、その場から消え去ろうとも思った。だがすぐに考えに蓋をして、火を止め部屋を換気し、母を引きずり起こした。
「起きろよ!母さん!」
母は僕に向かって怒鳴る。
「うるさい!いいから寝かせろ!」
酒の臭いと焦げの臭いに吐き気を催したのを覚えている。
湯船から上がり髪を洗う。外国製のシャンプーは泡立ちが良くない。
シャワーを全開にし、雑音を遮る。目を瞑ると頭の中に母の顔が浮かんでくる。悲しそうな、寂しそうな、それでいて怒っているような母の顔。
とうとう僕は記憶の中に母の笑顔を見つけることが出来なかった。
僕は伯母をおばさんとは呼ばない。伯母が名前で呼ぶ事を僕達姉弟に強要したからだ。
そこもこの人らしいと思う所だった。
風呂に入り一人になると、死んだ母を思い出す。
母はアルコール依存症だった。僕の記憶には酔った母しかいない。
酒を浴びる程飲んで、夕飯の支度もしないで寝ていたりはしょっちゅうで、ある時、学校から帰ると家の中が焦臭く、見ると酔い潰れて台所の床に転がった母と煙を上げている鍋。
僕が帰って来なければ、家は焼け、母は死んでいただろう。
僕はその時何も見なかった事にして、その場から消え去ろうとも思った。だがすぐに考えに蓋をして、火を止め部屋を換気し、母を引きずり起こした。
「起きろよ!母さん!」
母は僕に向かって怒鳴る。
「うるさい!いいから寝かせろ!」
酒の臭いと焦げの臭いに吐き気を催したのを覚えている。
湯船から上がり髪を洗う。外国製のシャンプーは泡立ちが良くない。
シャワーを全開にし、雑音を遮る。目を瞑ると頭の中に母の顔が浮かんでくる。悲しそうな、寂しそうな、それでいて怒っているような母の顔。
とうとう僕は記憶の中に母の笑顔を見つけることが出来なかった。