グッバイ・マザー
 風呂から上がると、伯母は未成年の僕にビールを勧めた。
 「私も入って来よっと。覗くなよ少年。」
「覗かねえよ。」
 伯母はけらけらと笑いながらバスタオルと着替えを持って浴室へ向かった。
 ビールを飲む。ビールは伯母の味。シュワシュワと泡立って、すっきりとほろ苦い。
 ウィスキーは母の味。臭いがきつくて、喉の通りは焼けるよう。苦いばっかりのイメージ。
 ビールを一気に流し入れる。あんまり好きではないが、酒はきっと弱くはない。
 煙草の方が僕には合ってる。だって僕まで酒にはまったら、まるで馬鹿だろうし。

 風呂上がりの伯母は若く見えた。不摂生な生活してるわりには、肌が綺麗だと思った。
 38歳、独身。家にはうるさい親戚は居ない。仕事もきちんと持っているし、服装の着こなしもセンスがいいと思う。もてないってことはないだろう。
 でも独身。彼女もまた、他人と共有することの出来ない何かを抱えているのかもしれない。僕のように。
 「明日の葬儀、出席するんでしょ?」
不意に話を振ってくる伯母。
「うん。」
「ちゃんとお別れ言うのよ。」
「うん。」
 僕達がその後、言葉を交わすことはなかった。
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