グッバイ・マザー
 その夜、僕は夢を見た。とてもとても悲しい、夢だった。
 母が居た。母はまだ少女だった。僕と同じくらいの年頃だろう。その少女を何故母だと思ったのかは分からない。でも、きっと母なんだと思う。
 清楚な白のワンピースに、真っ黒な長い髪を編み下げにしている。彼女は胸を締め付けるような悲しい暗い顔をしていた。僕は、何故そんな悲しそうな顔をしているの、と尋ねた。彼女は家に入れて貰えないの、と応えた。
 何故家に入れて貰えないの、と再び尋ねるとお母さんが家に入れてくれないの、と応えた。
 あの人が来る、と母は言った。誰が来るのと聞くと、母はそれには応えずに走り出した。僕は母を追いかける。でも二人の距離は少しも縮まることなく、むしろ離れていく。追いかければ追いかけるほど。
 僕は叫ぶ。お母さん、と。でも母が振り返ることは無かった。
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