グッバイ・マザー
 母の葬儀は、市が運営する葬儀場でしめやかに営まれた。
 父と姉は僕と伯母が葬儀場に現れたことに少し驚いて見せたが、すぐに式の雑務に追われることになった。
 僕は式の事をあまり覚えていない。ただ、母の友人という女性が生前の母の元気な様子を懐かしそうに語っていた。僕はまるで他人の事を聞いているような気持ちでいた。
 知らない人が、そこに居た。僕の知る母はいつもきつい目で、笑顔なんか見せたことが無くて、常に眉間に皺を寄せていた。
 式が終った。母の棺が運ばれて行く。併設している火葬場に移動する。葬式も火葬も一つの所で済ませるなんて、まるで工場みたいだなと思った。
 母の火葬を待つ間、父や姉と顔を突き合わせているのが辛く、外へ出た。姉はまた、泣いていた。
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