グッバイ・マザー
 すき焼きをつつきながら、ビールを飲む。昨日のように他愛ない会話をする。明日の天気はどうだとか、このタレントは誰だとか、そんな会話。
まるで何百回と繰り返されてきた食卓のように。

 でも、僕達は平穏ではいられない。今日の夜を境に、昨日とは別の日を歩く。
 運命はいつだって待ってはくれないものだ。母の死を契機に、それはゆっくりと、でも確実に、僕達に近付いている。僕のこれからを変える出来事は、もう、すぐそこまで来てる。
 それが何なのか、今の僕にはまだ分からない。そして、それを知らない方が良かったのか、もしくは知るべくして知る定めであったのかさえも。
 何にせよ、それは起きてしまうのである。選ぶことはかなわない。ただ受け入れるのみである。
 でも一つだけはっきり言えることがある。それは、知らない方がいいことなど一つもないってことだ。
< 20 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop