グッバイ・マザー
 寝苦しい深夜だった。
 伯母はいつも隣室で横になる。僕はリビングのソファ。最初は寝づらいと感じたが、二日も経つと慣れてくるのか、熟睡出来るようになっていた。
 でも、今夜は寝苦しくて、いつもと違う夜だった。
 「…ごめんなさい。」
隣室から声が聴こえた。伯母の声だ。小さな呟きではあるが、でもはっきりと。
 寝ぼけているんだろう。僕は何の気なしに隣室を覗いてみた。サイドテーブルの上のライトが、ベットで眠る伯母の顔をこうこうと照らしている。
 伯母は、泣いていた。
「ごめんなさい。」
と、誰かに向かって謝っている。
 嫌な感覚が、僕を襲った。聞いてはいけないと思った。でも、僕の本能がそれを認めなかった。
“僕は聞かなければならない”。本能はそう、僕に告げていた。
 ベットの側に座り、おそるおそる伯母に話しかけてみる。
「誰に謝ってるの?」
伯母は一拍を置き、はっきりと言った。
「お母さん。」

 動悸が激しくなるのを感じた。
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