グッバイ・マザー
 母は長らく、肝臓を患っていた。今年に入ってからは、一層と激しい体の痛みを訴えるようになった。
さすがにおかしいと感じたようで、病院で詳しく検査をしてもらうことにした。
 検査入院し、体の隅々を入念に調べた結果、悪性の腫瘍が体を蝕んでいたことが判明した。
 癌だった。それも末期の。だけど病院で母の担当医から説明を受けた時、僕は何も感じなかった。
 薄情、と言われるかもしれない。僕はその時母に対し、全ての興味と感情を失っていた。母を慕う気持も、哀れむ気持ちも、憎しみすらもない。

 抗がん剤を使い、必死に延命治療を施した。余命半年の命を、二ヶ月先に延ばして、母は死んだ。
 僕にとっては、ただそれだけのことだった。
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