グッバイ・マザー
 父は僕の為にホットミルクと、絆創膏を持ってきてくれた。
 よく見ると、靴下は酒まみれで、破片が所々に刺さっていた。
 靴下を慎重に脱ぎ、足をタオルで拭う。足の方は幸運にも無傷だった。
 僕はホットミルクを一口飲んだ。父のように、温かくて優しい優しい味だった。胃に染み渡っていくようだ。
 僕はゆっくりと切り出した。
「母さんの親戚は、いるんだね。」
「小名子さんに、聞いたのか?」
「ううん、あの人は教えてくれないよ。勝手に調べた。」
「そうか。」
 父は何かを考えているかのように、それから暫く黙りこんだ。僕は父の口が開くのを辛抱強く待った。
 「可名子と出会ったのは大学生の時だったよ。当時の可名子は綺麗だった。いや、ずっと綺麗なんだけど、当時は儚げで、透き通るような。本当に消えてしまいそうだったんだ。完全に俺の一目惚れだったよ。」
 過去を懐かしみ、そして少し照れた様子の父。
「正直、可名子の母親とは、会ったことはない。結婚式に両親を呼ぶことを、可名子は頑に拒んだ。弥生が生まれた時も両親にすら会わせようとしなかったよ。」
「母さんは、両親と絶縁していたんだね。」
僕の言葉に父が頷いた。
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