グッバイ・マザー
 その日は土砂降りの雨だった。
 外は既に暗く雨は容赦なく屋根やガラスを打ちつけ、窓ガラスに幾筋もの川を作った。
 雨樋からは滝のような飛沫が上がり、母が育てていた薔薇やパンジーの鉢植達を叩き続けている。
 昼間には途絶える事の無かった弔問客も雨が激しくなるにつれ徐々に落ち着いていき、母の棺が置いてある和室からはただ、空と同じ重苦しい沈んだ空気が流れ込んできていた。
 母の通夜に、ふさわしいと思う。晴れ渡った高く澄んだ空なんか、あの人には似合わない。暗くて寒くて雷が鳴り出しそうなくらいの、今日のような空がいい。
 母の全てを、過去の傷や過ちや負の思い出や、その存在すらも洗い流してくれそうだからだ。

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