グッバイ・マザー
 姉は泣き腫らした昨日に比べ、今日は気丈に弔問客の応対をしていた。
 背筋を伸ばし、黒の礼服に身を包んだ姿はどこか凛としていて、身内の僕さえも美しいと感じた。
 父はお茶を煎れると、出前の寿司の残りを皿に分けた。姉は箸と小皿を用意し、慎ましやかな食卓を調えた。
 「お母さんが好きだった海老…。」
 姉がぽつりと言った。父は脇目で姉を見ると、そうか、と非常に小さな声で呟き、箸を止めた。
「いらないなら俺が貰うよ。」
 僕は姉の前の海老を摘むと、口へ運んだ。
 その瞬間、横から凄い衝撃が走る。僕はいつの間にか畳の上に横倒しになっていた。
「弥生!」
姉の名前を叫ぶ父、僕に馬乗りになる姉。
「あんたはお母さん死んで悲しくないの?よく平気な顔してられるわね!」
姉が泣き叫びながら僕の顔や頭をめちゃくちゃに殴る。
「何するんだよ!」
 起き上がる為に、力一杯に姉を突き飛ばした。
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