グッバイ・マザー
 伯母の住むマンションは駅前の繁華街と少し離れた、閑静な住宅街にある。
 八階建てのそのマンションは、洒落た外観に加えてセキュリティも万全で、駐車場と駐輪場には防犯カメラが設置され、全部屋にはモニターとオートロック付いていた。その為か、住民の大半は伯母のように生活にゆとりのある単身者や、共働きの若夫婦だった。
 一級建築士の伯母の設計であり、そのつてで格安で購入することが出来たと以前聞いたことがある。
 勢いで家を飛び出してしまったが、ずぶ濡れの状態の未成年の僕が、マンションの前でうろうろするのは防犯上良くないだろう。下手すると通報されるかもしれない。冷静になって考えると、連絡が取れてから動くべきだったなと少し反省する。
 でも今日は実の姉の通夜だから、会社には行ってない筈だ。ただ、家に来ていたのは昼間なので、夕方以降の伯母の予定となると知る由もない。
僕が携帯電話を取り出し伯母の番号をアドレスから探しているとき、マンションの玄関から誰かが出てきた。
 とっさにバイクを留めた駐輪場に向かう振りをした、そのとき、背後からよく聴き慣れた声がした。
 「皐月?」
 声の主は伯母その人だった。

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