豪華絢爛/千紫万紅-乱世の花の色-
「それで、悩みとは何です?この母に言いたいと言う事は、お父上には言いづらい事なのでしょう?」

 暫し黙り込んだ左衛門は、一度唇を噛み締めてから、口を開いた。

「不安なのです」

「と、言いますと?」

「殿や周り…他の家臣の方々に、父上と比べられる事がです」

 武田勝頼然り、北条氏政然り。有能なる父を持つ子は、比べられるのが常だ。

「その様な事で御座いますか」

 深刻な悩みとして打ち明けた事の返事がこれ。誰だって、頭に来る。

「その様な事ではありませぬ!」

 目くじらを立てる左衛門に対し、母は優しい笑みを浮かべたままたっている。

「ご安心なさいまし。貴方は、殿に望まれて生まれて来たのですから」

「殿に、望まれて…」

「ええ」

< 3 / 15 >

この作品をシェア

pagetop