君のキオク、僕のキオク
「痛っ・・・・ハハ、なんかちょっと頭痛が」

佐伯はこめかみを指で押さえた。オレは一瞬躊躇して、言葉を切った。

事故の話はやめよう。オレは一緒に出かけた時のことを話した。

「そっか・・・君とは仲良かったんだね」

オレのとつとつとした語り口調を、ただ真剣に聞いていた佐伯が言う。

「あのさ、君のことなんて呼んでた?」

「ん・・・・琉矢・・・だったかな」

「ありがと。じゃあそう呼ぶ」

クセなのか、いつものように前髪を手で撫で付ける。一つ一つの仕草は今までと変わらないけど、どこかが違う。

いつものように、近くの信号で別れる。

ホントに、オレを覚えてないんだ。

後悔と言うか悲しみと言うか、どんな言葉でも言い表せないような感情にさいなまれる。

なんでオレなんだ。「君と言う人物が思い出せないの。誰かと一緒のお祭りに行ったのは覚えてる。けど、君と一緒だったのは思い出せない」と言われた時、耳を疑った。

ショックが大きかったのか、そのときはあまり感情が湧き上がらなかったけど、今になって抑えきれない。

何かを振り払うように、家のドアノブを掴んだ。
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