君のキオク、僕のキオク
記憶を失った佐伯と初めて一緒に帰ってから一週間。

塾で会うと挨拶はする。一緒に帰る。でも何かが違う。

口数がめっきり少なくなった。

オレといるのが楽しくないのだろうか。

男兄弟しかいない俺にとっては『女子』はわからない。

だから、明らかに計算ずくにしか見えない他の女子とは違う佐伯は、一緒にいると楽だった。

りゅーや、とちょっと間の伸びたような独特の呼び方が耳に残っている。

今は、ちょっと遠慮がちな声で「琉矢・・・(くん)」みたいな呼び方。

ちょっとイヤだ。なんか。

佐伯が事故の前後で様子が変わったのはみんな言っている。

右手の手首のギプスをぼんやり眺めながら遠い目をする。

キラキラと好奇心旺盛だった昔の瞳とは打って変わって。


あづみによると、「神谷のことだけ忘れてたのがすごいショックだったみたいよ。なんにも思い出せないけど、もしかしたらそれがすごい重要な記憶だったんじゃないかって」

お祭りの話しとか、な。

りんご飴の話とかお化け屋敷の話。
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