君のキオク、僕のキオク
オレは走り出した。地面を蹴り上げて。

佐伯は体勢を立て直して一瞬躊躇した。そしてオレを見た。

オレは思い切り手を伸ばした。佐伯の表情には恐怖が張り付いている。

佐伯はこっちに戻って来ようとしている。

ヘッドライトが近づき、オレの手が触れた。

激しいブレーキ音が鼓膜を貫く。指先が触れる。




あと少し-------



佐伯の体が目の前から掻き消えた。鈍い衝撃音と共に。

視界をトラックが遮り、何がなんだかわからなくなった。

数回瞬きを繰り返し、我に返ったか返らないかの狭間で佐伯を見た。

トラックの数メートル先に倒れていた。

足をもつれさせながら、カバンをおろして駆け寄る。

冷えたアスファルトに膝をつく。ジーンズの生地通して、地面の凹凸が伝わってくる。

「り・・・・ゅ・・・・琉・・・・矢」

表情は錯乱のしていて、薄く開いた瞼の下には輝きを失った瞳が見えた。

どこからかおびただしい量の血が流れだしている。

ジーンズの生地に、血が染み込んでくる。







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