君のキオク、僕のキオク
「ひゃあぁぁぁぁぁぁああああ」

佐伯が突然悲鳴を上げた。斜め後ろにいたオレの腕を掴もうとして掴もうとしない。

腕を掴むか掴まないか迷ってるかのように手を空中で泳がせる。

「・・・いいよ」

「怖くなんかない!怖くなんか・・・・びっくりしただけ」

進行方向にあるとてつもなくリアルな『死体(首吊り流血)』を眺める。

音楽も不気味だが目の前の物体も相当不気味だろう。全てがリアルで筆舌に尽くしがたい不気味さになんか変な匂いもする特典付き。

右手で腕を掴んでいる。握力が相当弱い佐伯の手はとても小さく感じる。

ゆっくりと進むと、佐伯もゆっくり着いてくる。首吊り死体を必死で避けながら。

佐伯はこのお化け屋敷は初めてだから、こんなにもリアルだとは知らなかったんだろう。ココの人は、一年間掛けてるんだしな・・・。そうか、今年は『リアル』な年なのか。最悪な年にあたったな・・・。

「なんか・・・モノがリアルになってきてない・・・・?・・・雰囲気もリアルに・・・うひゃっ」

生首とか生手首とかごろごろしてるよ・・・・。ココまで色々あると感覚麻痺らないか?

佐伯はいつの間にか両手でがっちり腕を掴んでいる。握力弱いにしろなかなか痛い。手の面積小さっ・・・・。

「あー・・・・・やっぱ怖かった?」

「そんなこと無いし・・・・だって目の前に頼りがいのある男子がいたらとりあえず前歩かせるもんでしょ!」

「なにそれ・・・・じゃ、掴んでていいよ」

離すかよ、と呟くとオレに歩調を合わせて隣に並んだ。

「手ぇ繋いでたほうが逃げる時いいよね」


と言うとオレの左手を握った。佐伯がいたずらっぽく笑う。身長は同じくらいでも、女子だとやっぱり手は小さい。オレの手よりも一回りちょっと小さいと思う。

柔らかい手。ドキドキして仕方ない。女子と手なんて繋ぐの初めてだ。心臓が脈打っているのが全身で感じられる。








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