君のキオク、僕のキオク
病室の戸を開けると、ばあちゃんもいなかった。

佐伯は頭部強打と右手首骨折と軽い打撲以外、他に目立った外傷は無かった。

夕焼けに赤く染まった病室には、機械音が響いているだけ。

佐伯の茶色い前髪がただ額にかかっている。

オレは病室を出ようとした。いたたまれなくて。

ドアに手を掛けた。

「・・・・・・ね・・・ぇ・・・・・・・・・・・・・・・」


また空耳。佐伯の声が響く。


空耳?


まさかと思って振り向いた。嘘だった。





空耳だってことが。

「佐伯!」

オレはナースコールを慌てて押した。

すぐに看護師が入ってきた。

「意識が・・・意識が戻った」

看護師が慌てて医師を呼ぶ。

オレは一旦外に出された。


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