伸ばした手の先 指の先

 放課後。

「ほら、琴音ちゃん!柚季に返事聞きに行くよ!」

「いいいいいです!あのっ……そのっ……」

 まさか、「『付き合ってほしい』みたいなこと書いてません」なんて言えず、双葉先輩とファゴットのあやめ先輩に引きずっていかれる。

 理科室前の廊下の窓を閉めていた、柚季先輩のところへ。

「柚季!ちゃんと返事して!」

「早く!」

 

「ちょっと、考えさせて」

 

 柚季先輩の、静かな声。

「だめ!今!」

 あやめ先輩の鋭い声。

 あたしは呼吸を忘れて、その横顔を見つめた。

「○か×か、はっきりしてっ!!」

 双葉先輩が追い討ちをかける。

 たった1秒間の、真空の静寂。

 

「まるっ」

 

 世界が、時間が、止まった。

 

「やった!やったよ琴音ちゃん!」

 双葉先輩が我が事のように喜んでる。

「おめでとうっ!!」

 あやめ先輩がぴょんぴょん跳ねながらあたしの腕を引っ張る。

「え……?」

 現実として迫ってこない。

 でも。

「まるって言った……」

「そう!そうだよ!」

「おめでとう!よかったねっ!!」

 たぶん、現実。

 

 こうしてあたしは、晴れて大辻柚季先輩と付き合うことになった。
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