伸ばした手の先 指の先
あたしの幸せは、いつだってすぐに逃げていく。
幼稚園のとき、やっと友達になれた女の子と遊ぶ約束をしていたのに、その子は次の週に引っ越してしまった。
かわいい犬と公園で遊んで懐いてくれたのに、2日後その犬は死んでしまった。
また明日も見たいと願った月は雲に隠れ、隣にいた人も今日はいない。
「どうして、どうしてっ!!」
あたしが悪い子だから?
「いい子になるからムクを生き返らせてください」って教会でお祈りした日も、雨だった。
ムクは冷たいままで、全然動かなかった。
神様。
あたしがあなたを信じなくなったから、こうやって罰を与えるんですか。
どうしていつもいつも、あたしから奪っていくんですか。
「返して……返してください」
なんであたしばっかり。
「返してっ……返してよっ……どうして!!」
恨んだ。
神様を、
いや、
顧問を。
「どうしてあんたに禁止されなきゃいけないの?!」
一人ずつやらされるレッスンで柚季先輩に聞かれても恥ずかしい思いをしないように、一生懸命練習するようになった。
もういつ辞めてもいい「ただの部活動」が、絶対に辞められない「大切な部活動」になった。
あたしの世界のほとんどが、柚季先輩で構成されていた。
片想いでも、ただ見ていられるだけでよかったのに、付き合えることになった。
今日だってサボらずに、二人で練習してました。
それなのに、どうして。
「あんたなんかっ」
毒を盛ってやろうか。
喉にナイフを突き立てて、二度と歌えなくしてやろうか。
「……死ねばいいっ……」
あたしの頬を伝うのは、冷たい雨と恨みの涙。
柚季先輩は、今頃どうしているだろう。