伸ばした手の先 指の先
うつろなかなしみ
とは言ったものの、今まで目で追っていた人を視界からはずすのは簡単じゃない。
無意識のうちに、今日も見慣れたあの人が。
カラーリングやワックスとは無縁の、癖のある黒髪。柔らかそうに秋の夕日を浴びて、赤く輝いている。
男にしては華奢な背中。
すらりと背の高い、ほっそりした体型が羨ましい。
……じゃなくて。
もう見ないって決めたのに。
「渡辺さん」
「何でしょう」
名前を呼ばれると熱を帯びる頬は、いなめないけれど。
「チューナー貸してくれる?」
「どうぞ。大辻先輩」
一瞬、折れそうに細い肩がぴくっと反応した。
「ありがと」
もう、見つめないと決めました。
でも、今でもあなたを想っています。
それは、あたしが出した答え。