伸ばした手の先 指の先
12歳、7月
大会にて。
7月の末には、全国につながるコンクールがある。
ここで勝ち進めなければ、3年生にとっては最後の大会となる。
楽器運びが仕事の1年生は、先輩がたの演奏を舞台袖で聴いていた。
2年生であたしの直属の、尾崎葵先輩。2年生ながらもソロを任された大辻先輩。
息をひそめて、二人の音を辿る。
あ、もうすぐ大辻先輩のソロだ。
ユーフォニウム1年の大和小春も、じっと耳を澄ませている。
哀しげなメロディーライン。
ロングトーンと同じタイミングで、ソロが始まる。
銀色のベルから、青空の色がついた音が優しく広がるような、そんな響きだった。
「すごいじゃん、先輩」
大和が小さく呟いた。
「うわ、お前かよ」
「悪かったですね、大辻先輩。お疲れ様でした」
閉会式のために着席した席は、隣が大辻先輩だった。
1年男子が先輩にちょっかいを出してからかっていたので、あたしも便乗して式が始まるまで遊んでいた。
そして、いよいよ結果発表。
「○○中学校……」
主催者だか司会者だかがやけに間を空ける。
「金賞」
隣で先輩がぼそっと言った。
「金賞、ゴールド!」
途端に会場の真ん中付近で、キャーッと歓声が上がる。
「なっ、なんでわかるんですか?!」
予言の力でもあるんじゃないかと大辻先輩を見上げたあたしに返ってきたのは、ちょっと得意げな笑顔だった。
「どの大会でも必ず上位にいる学校だから、覚えてるんだ」
だとしたら、相当記憶力がいい。
その後も、先輩はぴたりぴたりと金賞受賞校を言い当てていった。
「S中学校……」
「今年も、銅賞」
皮肉っぽく呟く。
「銅賞」
そこここからため息が漏れ聞こえる。
「所詮、全国大会なんて顧問の夢でしかないからさ」
県大会も行けないようじゃだめだよね、と。
肩をすくめた先輩の肩が小さく震えてた気がした。