伸ばした手の先 指の先
「あ」
白い壁。オレンジがかった茶色の屋根。
【琴音荘】の青い文字。
「ここだ……」
1階の廊下には、何度か目にした黒い自転車。
「琴音荘……」
「あんたら、何してんの」
不意に後ろから声をかけられてとびあがる。
見慣れない女の子が立っていた。
うなじのあたりで切った茶色っぽい癖っ毛とぶっきらぼうな話し方がボーイッシュで、ブラウス着てなかったら絶対に男子と間違えそうだ。
「あ、秋田さん」
月見の知り合いらしい。
「この子は琴音っていうんだけど、柚季んちってここだよね?」
「おう、そこのアパート」
親指で背後のアパートを指す仕草も男らしい。
「渡辺琴音です」
とりあえず、自己紹介。
「秋田紘。てかタメだよね?」
「あ、はい……うん」
秋田さんは大人っぽく笑顔になった。
「ちゃん付けしないでほしい。つーか呼び捨てでいいわ」
「わかった。じゃああたしのことも呼び捨てで。よろしくね、紘」
「よろしく、琴音」
お互いに笑顔を交わした、そのとき。
琴音荘102号室のドアが開いた。