伸ばした手の先 指の先

 指揮者の指が上がるのと同時に、弓を弦に当てる。

 1、2、3!

 長い休符のために弓を下ろし、耳を澄ませる。

 テナーサックスで掻き消されそうな儚いユーフォニウムに、心でエールを送る。

 再び、弓を構える。

 低く長く、音を伸ばす。

 そっと、切なげに。

 一度、音楽は止まり――

 足音のように、規則的に。

 それが私の、コントラバスの務めだ。

 目立たぬよう、しっかりと土台を作ること。

 

 与えられた楽譜を弾きこなす。

 そういう無機質な生き方をしてきた。

 

 壊れかけの家庭、壊れかけた親の元に生まれてきたこと。

 望むものは手に入る前になくなってしまうこと。

 

 それらは全部、「渡辺琴音」の楽譜だと思っている。
 
 見ることができたならば、それはきっとelegiacoだらけの楽譜に違いない。

 ページをめくらない限り、次の音符はわからない。

 brillanteを期待することは、とっくの昔にやめていた。

 
 フルートがsoloに入った。

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