伸ばした手の先 指の先
12歳、8月
夏祭り
6月に頑張った甲斐があって、夏祭りにむけてのレッスンではほとんど引っかからなかった。
「じゃあ、ここのメロディーやってるパートだけいこうか。アルトサックス、テナーサックス、バリトンサックス、ホルン、ユーフォニウム」
あーあ。
大辻先輩も当たった。
「19小節目から、1、2、3」
顧問が、指揮棒がわりのドラムスティックで指揮台を叩く。
あーあーあーあーあー。
どのパートもぼろぼろ。
おそらく足を引っ張っているのは1年。
「柚季ー」
それと大辻先輩。
「一人ずついくぞー」
他のパートのレッスン待ちほど暇な時間はない。
あたしは楽器の陰で文庫本を開いた。
西日はまだきつい。
立ちっぱなしだった練習で腰が痛い。
1日中真夏の太陽にさらされて熱くなったサドルにまたがって、プロムナードのタイルを蹴る。
明日は夏祭りでの演奏のリハーサル。
だから今日は早く帰って、早く寝よう。
翌朝。
挨拶をして、葵先輩と二人で基礎練習を終える頃、音楽室に大辻先輩が入ってきた。
「葵先輩、楽譜もって行きましょうか?」
「あ、お願い。ありがとう琴音ちゃん」
「はい」
二人分の楽譜と譜面台を持って、すれ違う。
午後。
日当たりのいい1階のデッキでチューニング。
日射病で二人倒れて、今日の練習は終わった。