伸ばした手の先 指の先
12歳、9月
告白
2学期が始まっても、あたしの気持ちはもやもや沈んだままだった。
パート練習。
「はぁ……」
「どうしたの?」
あたしと仲がいい、チューバの小森双葉先輩に聞かれて、あたしは口を開いた。
「あたし、大辻先輩のこと……」
目線を床に落として、ごく小さな声で。
「好き、なんです」
一瞬の沈黙。
そして。
「そっか」
双葉先輩は、笑っていた。
「柚季はさ、ひょろいしヘタレだし、琴音ちゃんにはもったいないと思うよ?」
「え?」
「でもね、」
笑顔が消える。
「本当に好きなら、告っちゃえばいいじゃん」
ごく真剣に、先輩は言った。
「大辻先輩、彼女いるって聞いたんですけど……」
「え?……あ、小園さんのこと?」
「小園さん?」
拍子抜けしたように、大辻先輩の彼女さんのことを教えてくれた。
「小園宏枝はね、美術部の2年で、柚季と同じクラスの人。話したことはあんまりないけど、小学校のときから柚季に振られてるらしいよ」
「かわいい人なんですか?」
「全っ然。琴音ちゃんのほうが絶対かわいい」
ぽかん。と口が開いた。
「本人に聞いてみるといいよ。ほら、ちょうど来たみたいだし」
ホールのドアを開けたのは、柚季先輩だった。