伸ばした手の先 指の先
土曜日。
この日はコントラバス4重奏の人たちが隣町の高校で演奏会と講習会を開くので、葵先輩とあたしは顧問に付き添われてそこに行った。
「あ」
中学校の玄関で、帰ろうとしてた柚季先輩に会った。
「いってらっしゃい」
弓を抱えたあたしに、無邪気な笑顔を向けてくれた。
「……行ってきます」
久しぶりに幸せな笑顔。
にこ、と笑い返して、駐輪場までプロムナードを並んで歩く。
「頑張ってね、講習会」
「はい。ありがとうございます。さようなら」
「ばいばい」
右と左に分かれたあと、自然に頬が熱くなる。
「いってらっしゃい」って言ってくれた。
笑ってくれた。
「頑張ってね」って、「ばいばい」って、言ってくれた。
たったそれだけ、でもそんなに幸せなこと。
傍にいれるだけで嬉しくて。
あたしの想いを、知ってもらいたい。
ただ、好きだっていうその一言だけを、伝えたい。
先生の車に乗って校門をくぐるとき、柚季先輩が自転車で前を走っていった。