サルビア
その日、あたしはある男性に出会った。

「初めてのお客さんやけど、指名してきやってんか?」

そうボーイに伝えられた。

誰…?

恐る恐る開けた扉の向こうに座っていたのは、優しそうな、40歳くらいの男だった。


「はじめまして!」

「ご指名ありがとうございます…」

そう言いながらも、見覚えのない男に不安な顔をしながら、隣に座った。

「エリは元気…?」

優しい笑顔で、男は聞いた。

「エリ…?」

男は黙って、コクリと頷いた。


彼は、エリのお客さんだった。

あたしは何も言えないまま、彼の話を聞いた。

エリを指名し続けてきたけど、毎回話をするだけの関係やった事。

毎回エリが楽しそうに、あたしの話をしていた事。

彼は何もかもを、知っていたんやと思う。

話を聞いて、何となくそう思った。




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