ヒワズウタ ~ユヅキ~
「あぁ、もう大丈夫なんだね」
伏し目がちな目元は、長い睫毛に縁取られ、瞼は微かに 色に染まっている。
赤味を帯びた唇が、震えるように囁く。
「あの・・・、はい・・・」
先程までは、色を失ったように青白い表情だったが、
頬には少し赤味が戻ってきている。
それでも、まだ一人で歩くには不安が残るような足取りだ。
少女の体を支えるように、そっと肩に手を置く。
「家は近いの?
誰か、家の人に迎えに来てもらったほうがいいよ。」
少女の眼差しが、オレを捉える。
ゆっくりと、視線が合う。
「あの、家は近いんです。
そこの信号を曲がって、少し行ったところで・・・。
でも、一人暮らしで・・・あの・・・」
見る間に、少女の耳が赤く染まる。
ほんの一瞬、
夕焼けに染まる教室がフラッシュバックした。
胸骨の下の方が、
ギュッ と、
痛んだ。
これは、絹代の痛みか?
「・・・近くまで送ろうか?」
屈んだ体を元に伸ばし、少女からの視線を外す。
声は無く、
少女は
ただ小さく頷いたのみだった。