ヒワズウタ ~ユヅキ~
駅前にある、このコンビニから彼女のアパートまでは、それほど遠くない。
オレは、彼女と二人で並んで夜の住宅街を歩いた。
まるで、散歩でもしているみたいに。
静まりかえった道を二人で歩く。
彼女は、たくさん話しをした。
今年の春に大学生となり、初めての一人暮らしを始めたこと。
ここよりも、もっと田舎で育った彼女には、夜中でも開いている店があるのとか、田んぼも川も畑も無いのとか、全てが驚きの連続だったこと。
五月の連休に、初めての恋人ができて嬉しかったこと。
夏休みに入ってすぐに、その恋人に他に好きな人が出来て別れたこと。
相手は同じ大学の子で、少し派手な感じの子だったこと。
彼女とは、まったく正反対で、酷く落ち込んだこと。
最近、食欲が無かったこと。
眩暈とか、体のダルさが続いてたこと。
とにかく、よく話す子だった。
オレの学生の頃の記憶だって、
他人から見れば、こんな風にどうでもいい悩みに思われるんだろうか。
もう、アパートの前に着いてしまった時に、彼女は、オレ自身のことも話した。
最近よく見かけて、なんだか昨日は疲れて見えて気になったこと。
また、
胸骨の下の方が、
ギュッ と、
痛んだ。
あの頃のオレは、
自分の気持ちを持て余し、
他人を拒絶し、
言い様の無い焦燥感に襲われていた。
就職してからは、そんな気持ちも忘れていた。
いや、思い出す時間が無いほどに忙しかっただけか。
目の前の仕事を黙々とこなす。
ただ、それだけの日々で今日まで来てしまった。
僅かに潤んだ少女の瞳と視線が合う。