ヒワズウタ ~ユヅキ~
きっと、まだ、世の中の汚いことなんて何も知らないんだろう。
傷付く怖さを知らないんだろう。
仔犬みたいな目で見上げる彼女の頭を、そっと撫でる。
フワリ、と
柔らかな感触が右の掌に伝わる。
「知らない男の人を、簡単に部屋に入れちゃいけないよ」
諭された子供みたいに彼女は瞳を伏せた。
「おやすみ。」
と、やさしく言い聞かせる。
彼女は、今日のお礼をして、アパートの部屋へと帰っていった。
視界から彼女が消えた途端、
世界が少し変わった気がした。
世界が少し歪んだ気がした。
今、来た道をマンションに帰るために引き返す。
さっき二人で来た道を。