ヒワズウタ ~ユヅキ~
顔を向けると、雑誌のコーナーに昨日の少女がこちらを窺い立っていた。
こちらに向かって来る彼女は、心なしか真面目な表情だ。
その真剣さが、妙に可笑しくて、つい笑顔になってしまう。
「今日は、元気みたいだね・・・チヒロちゃん?」
酔いも手伝い、からかって名前を呼んでみた。
「あの・・・名前・・・どうして?」
彼女の頬が、見る間に赤く染まっていく。
驚くほど予想通りの反応に、つい調子に乗ってしまう。
「昨日、店長さんかな?
そう呼んでたからさ」
「あ・・・あの」
柔らかな唇が震えている。
長い睫毛に縁取られた瞳が泳いでいる。
「大丈夫?顔、赤いよ」
そう言って、赤く染まった彼女の頬に右手を添える。
そっと包み込むように。
熱を持った、なめらかな頬。
「あの・・・名前を教えてもらえませんか?」
「あぁ・・」
そっと親指で撫でるようにして彼女の頬から右手を離す。