びいだま

瞬間、少し生暖かい春風が吹き込んできて、反射的に目を閉じる。


もう一度開けると、「彼」はもう遠く、その姿は小さくなっていた。


隣で、私の視線を追ったコマキがため息をついて窓を閉める。


「垣内悠司(ユウジ)。眼鏡で、猫背・・・・ボサ男。どこがいいの?果歩」


あぁ、ダメだ。


その名前を聞くだけで、心臓がトクントクンと波打ち始める。


そんな私の様子を見て、コマキはだめだこりゃ、と肩をすくめた。


うん。


わかってる。


これって、これって・・・


「恋の病」だよね、きっと!!


・・・・・・



「ほらっ、少女漫画入ってないで、帰るよ」


ぽんっ、と肩を押され、私はもう一度だけ窓の外を眺めて教室に戻った。



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