びいだま

一瞬固まった空気の中で、コマキがぽんと両手をあわせて


「ごめんごめん。私ちょっと忘れ物しちゃった。先帰ってて!」


「あ・・・・」



という間もなく、コマキはもと来た階段を上がっていった。


コマキ・・・・。



「あいつ、演技が死ぬほど下手だな」


噴出すように瑞貴がつぶやいた。



「瑞貴・・・どうしたの?」


「あ?あぁ・・・・今日も遅くなったから・・・・」


あ・・・・。


どうしよう・・・。



「うそうそ。そんな困った顔すんな。あんなこと、もうしないから・・・」


「・・・・・」


「今日はさ、ちょっと付き合って欲しいとこがあって待ってたんだ」


「・・・・??」


「いいから、来て!」


「ちょ・・・・・」



私の手をぎゅっと握って引っ張られるように乗せた電車のドアがプシュー、と閉まった。



どこ?


どこに行くの???





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