はかなき恋のうた~NAGASAKI・軍艦島
「…じゃ、出世払いでいいから…そこに座って」
と俺が目の前のオンボロの木の椅子を指差すと真琴は何も気にすることなくそのオンボロの埃をかぶったような椅子に迷わずに座った。



ーー多分、別れた妻の冴子なら物凄い剣幕で怒っただろう。



俺はそれがどこか嬉しかった。




それから俺が余命1年と宣告された一年後の梅雨まで365日の…俺にとっては最後の恋…片思いが始まった。




ーー真琴は、俺との出会いがこの時だと思っていたが…実は違う。





本当の出会いは…それよりも2週間前の…

その日も雨がしとしと降る日曜の午後だった。





ーーあの日…





俺は死のうと思っていた。


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