二人で一人〜永遠に
店を出た俺達は、西の橋で信号が変わるのを待っていた。
千冬が急に俺の腕を掴んでいた手に力が入った。
「……どうした?」
「……病院に…まだ……帰りたくない……」
千冬は、唇を震わせ白い息を出しながら言った。
「……分かった」
俺は、腕を力強く握る千冬の手を握った。
千冬は、埠頭で海の波音を聞きたいと言った。
「…寒くないか?」
「平気…」
俺は、隣に座る千冬の肩を抱き寄せた。
「…あったかいよ…」
千冬は、俺の肩に頭を傾け言った。
「……お婆ちゃん…会いたかったな…」
「うん……会いたかった……もう一度、会いたかったよ…」
「………」
俺は、千冬の震える声を聞き頭を撫で、頷いた。
「……月…」
「ん?…」
「月は出てる?」
俺は夜空を見上げた。
「…あぁ…綺麗な満月だ…」
「そう」
千冬は、見えない眼で夜空に顔を向けた。
「…こうしているとお月さまが見えそうな気がする…」
俺は、千冬の言葉を聞いて返事の言葉に戸惑った。
「…いつか…またいつか、眼が見えるようになったら…海に浮かぶ月を見たい」