君が為に、届くことなかれ
君が為に、届くことなかれ
「あちゃー…見事にやられたな」
その惨状を目の当たりにし、百合雅は頭を抱えた。
しかし、それよりも尚…彼女の隣にいた朱莉は、蒼白な顔で呆然と佇む。
「誰が…こんな…っ‥…」
そう言葉にする唇は、衝撃に震えていた。
「さぁ…大方、タヌキかキツネあたりじゃないのか?」
「キツネ!?キツネって…あの嫌味女の事!?」
百合雅のそんな言葉に、何故か逸早く反応したのは…壱刻ことイチ
「バカ、確かにあの女も"女狐"なのには、変わり無いけど…コッチは、本物のキツネの仕業だよ」
そう言って、少し脱力したように彼女が視線を向けた先は……先日、キレイに整えたばかりのハズの土壌が、何者かの手によってぐちゃぐちゃに荒らされた前庭
小さな手作りの柵も壊され、見事に壊滅的な被害を被ったソコに、花を愛でる事が大好きな朱莉は目も当てられず顔を背ける。
「ゆーちゃんお手製の柵が、脆弱(ぜいじゃく)だったんじゃないのー?」
庭を荒らした張本人であるらしい 獣の足跡をツンツンつつきながら、イチが少し訝しげに言った。
その台詞に、百合雅はあからさまにムッとした様子で切り返す。