あなたが私にできる事
偶然の再会
山口くんはポツリと話しだす。
「前にも話したけど俺の親は兄さんに付きっきりでさ。俺、生まれた時から親に構ってもらったことがないんだ。
小学校の高学年になった頃には兄さんの邪魔になるからってこの離れに隔離された。
父親も母親も仕事人間で、家業を兄さんに継がせることにしか興味がないんだ。」
思い返せば母屋はいつ来ても人の気配を感じなかった。
誰もいない大きな家に一人で残される幼い彼を想像する。
「俺も…親の愛情ってよくわかんない。」
「だけど、山口くんにはあんなに素敵なお姉さんがいるよ?」
私の言葉に彼の表情が和らぐ。
「うん、そうなんだ。俺には姉ちゃんも友達もいたから淋しくなかった。
だから神崎さんもそうやって生きたらもっと楽しくなるよ。
もっと…、俺とか頼っていいよ。」
山口くんは私の喜ぶことをたくさん言ってくれる。
思わず頼りたくなった。
その胸に飛び込みたくなった。
でも…、
今の私ではきっと彼を潰してしまう。
そんな事できるわけがなかった。