あなたが私にできる事
昼休み、教室の入り口で山口くんに出くわした。
「遅刻した時くらい後ろのドアから入れよ。」
「だって前のドアの方が廊下から近いじゃん。」
平然とそう言う私に“さすが神崎さん”と言って笑われた。
そして嫌な笑顔を作りながら続ける。
「今日は休むかと思った。」
「なんで?」
「失恋のショックで?」
背の高い彼をキッと下から睨み上げた。
「こわっ。はははっ!冗談だよ。気にすんな。」
私の肩を叩きながら教室を後にする。
すごくムカつくのに彼の笑顔はなんだか憎めない。
自分の席に戻ると美紀が寄って来た。
「恵梨香ってヤマと仲良かったっけ?」
今の私たちのやり取りを見ていたらしい。
彼女は私が必要ない限り人と話をしない事を知っている。
「別に。」
「ふ~ん。」
何か言いたげにしていたがそれ以上何も言ってこなかった。
私はただ会話の内容を聞かれていないことを願った。