あなたが私にできる事
和希と出会ったのは中学2年の時だった。
その頃私は無理矢理塾に通わされていた。
生徒を数字でしか見ていないような塾の講師が嫌いだった。
うんざりするような授業を終え家に帰ろうとした時、外が雨だということに気づいた。
梅雨時特有のジトジトとした空気。
濡れることを躊躇して玄関で立ち尽くす。
「傘、無いんだったらこれ使っていいよ。」
男の子が私に向かって1本のビニール傘を差し出す。
窮屈そうな黒ぶちの眼鏡。斜めに掛けられた重たそうな鞄。
私とは違う成績優秀な子たちの入れるクラスの人だと思い出した。
「いいの?」
「うん。俺は親が車で迎えに来てるから。」
“俺”という表現が真面目そうな外見に似合っていなくておかしかった。
クスクスと笑いながら傘を受け取る。
「ありがとう。」