あなたが私にできる事
「はい。コレかぶって。」
私の手にはヘルメット。
「でも一個しかないよ?」
原付のエンジンをかける山口くんの後ろ姿に声をかけた。
彼はこちらを向き私からヘルメットをとる。
そして私の頭にヘルメットをかぶせながら言った。
「もしも何かあったら神崎さんがケガするだろ?かぶっとけ。」
「何かって…事故っちゃうような腕なの?なんか乗るの不安なんだけど。」
真顔で答える私を見て山口くんが一瞬口をつぐむ。
そして噛み締めるように笑った。
「神崎さっ…。あのさ、そういう時は…“キャッ、自分より私の心配してくれるのね”ってキュンとして欲しいんだけど?ふっ…。そんな返しされたの初めて。俺って信用ない?」
「やだっ…。ごめん!そんなつもりじゃなかったんだけど。」
焦る私を見て山口くんは声を出して笑った。
「いいよ、別に。本当はそんな理由じゃないから。警察に見つかった時に、後ろがノーヘルよりも前がノーヘルの方が罪が軽くなるんだよ。超自分本意な考えだったりするんだ。」
辺りは闇に包まれ始め、どんどん気温も下がっていた。
“しっかりつかまった?”山口くんはそう言い滑らかに原付を発進させる。
この先どこに向かうのか私にはわからなかった。